第19回・西鶴研究会(2004年8月27日(金)午後2時~6時、青山学院大学 総合研究ビルディング 10階 第18会議室)

◇『本朝桜陰比事』について  ~「比事物」で描こうとしたもの~
愛知大学大学院文学研究科在学 
松村美奈

 『本朝桜陰比事』は西鶴の作品の中で雑話物の一つに分類されており、「お捌き」形式をとった所謂比事物とも言われている。しかし、作品の評価としては今ひとつである。なぜか。
 私は「名判官物語」という規定がなされた所以ではなかろうかと考える。確かに中国の裁判(公案)説話の『棠陰比事』の影響は大きく、この作品を意識して題 名がつけられたということは周知の通りである。また『板倉政要』の板倉父子がモデルなのではという説もあり、裁決の内容からも「名判官物語」と読まれてい くことはごく自然なことであろう。
 しかし、ここで再度考えてみたいのである。西鶴は本当に「名裁判官」の活躍が描きたかったがために「裁判」の形式を取り入れたのであろうか?
 西鶴の中に「名裁判」イコール「比事」という図式は成立していたのだろうか・・・?疑問は尽きない。先行研究にも多様な角度からの「読み方」を提示する ものが見られる。それらをふまえつつ、今回は西鶴がわざわざ「裁判」という狭い「場」を設定した意味とは何か?またその中で何を描こうとしていたのか、と いった点を中心に自分なりに検討していきたいと考えている。
 まずは作品中の町人世界・女性・親子といった人物関係やその描写・言葉などに着目し、キーワード(キーフレーズ)となるものを掘り起こし、この作品の中 に潜んでいる意味を導き出したい。そして他の西鶴作品や西鶴以前以後の「比事物」作品との比較検討を試みることで、西鶴自身が『本朝桜陰比事』に何を求め たのか、また、なぜ『本朝桜陰比事』を書いたのかといったところまでせまり、作品の持つ「独自性」を見出すことができればと考えている。

○司会は前回発表者の予定です